2025年11月20日
2025年11月20日
今年の冬は、例年よりも早い時期からインフルエンザの流行が拡大しており、感染者数も日を追うごとに増えています。厚生労働省によると、今季の主な流行株は「A香港型(H3/N2)」で、全国の約半数を占めているとされています。この型は重症化しやすく、ワクチンの効果が得にくい傾向があるといわれています。
現在、インフルエンザや風邪の症状で医療機関を訪れる患者が急増しており、診療現場には大きな負担がかかっています。このままでは昨シーズンと同様、都市部を中心に抗インフルエンザ薬(タミフルなど)等の供給が不足する可能性もあります。
こうしたなか、「なぜ人によってインフルエンザにかかりやすさが違うのか」という疑問に対して、健康ビッグデータを活用した新たな研究結果が報告されました。弘前大学・京都大学・大正製薬の共同研究チーム※は、弘前大学COI-NEXT拠点が青森県弘前市で実施している大規模健康調査「岩木健康増進プロジェクト健診(IHPP)」のデータを活用し、個人の体質や生活習慣とインフルエンザ発症リスクとの関係を解析しました。この成果は、2025年8月、国際的な科学論文誌(Scientific Reports)に掲載されました。
以下では、弘前大学・京都大学・大正製薬による共同研究で見えてきた「インフルエンザにかかりやすい体質・生活習慣」の傾向を論文内容に基づき解説するとともに、後半では感染症に詳しい内科医・久住英二先生に、研究結果を踏まえた今冬の感染拡大に備えるための具体的な予防対策についてお話を伺います。
※弘前大学大学院医学研究科附属健康・医療データサイエンス研究センター玉田嘉紀教授、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻ビッグデータ医科学分野奥野恭史教授を研究代表者とする共同研究チーム。
今年の冬は、例年よりも早い時期からインフルエンザの流行が拡大しており、感染者数も日を追うごとに増えています。厚生労働省によると、今季の主な流行株は「A香港型(H3/N2)」で、全国の約半数を占めているとされています。この型は重症化しやすく、ワクチンの効果が得にくい傾向があるといわれています。
現在、インフルエンザや風邪の症状で医療機関を訪れる患者が急増しており、診療現場には大きな負担がかかっています。このままでは昨シーズンと同様、都市部を中心に抗インフルエンザ薬(タミフルなど)等の供給が不足する可能性もあります。
こうしたなか、「なぜ人によってインフルエンザにかかりやすさが違うのか」という疑問に対して、健康ビッグデータを活用した新たな研究結果が報告されました。弘前大学・京都大学・大正製薬の共同研究チーム※は、弘前大学COI-NEXT拠点が青森県弘前市で実施している大規模健康調査「岩木健康増進プロジェクト健診(IHPP)」のデータを活用し、個人の体質や生活習慣とインフルエンザ発症リスクとの関係を解析しました。この成果は、2025年8月、国際的な科学論文誌(Scientific Reports)に掲載されました。
以下では、弘前大学・京都大学・大正製薬による共同研究で見えてきた「インフルエンザにかかりやすい体質・生活習慣」の傾向を論文内容に基づき解説するとともに、後半では感染症に詳しい内科医・久住英二先生に、研究結果を踏まえた今冬の感染拡大に備えるための具体的な予防対策についてお話を伺います。
※弘前大学大学院医学研究科附属健康・医療データサイエンス研究センター玉田嘉紀教授、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻ビッグデータ医科学分野奥野恭史教授を研究代表者とする共同研究チーム。
IHPP(岩木健康増進プロジェクト健診)は、弘前大学が毎年実施している地域健康調査で、20歳以上の住民約1,000人を対象に、血液検査、生活習慣、職業、既往歴、体組成など3,000項目以上の健康データを収集しています。今回の研究では、その中からAIを活用して、インフルエンザにかかりやすい要因165項目を抽出し、その要因の関係性を詳細に分析しました。
IHPP(岩木健康増進プロジェクト健診)は、弘前大学が毎年実施している地域健康調査で、20歳以上の住民約1,000人を対象に、血液検査、生活習慣、職業、既往歴、体組成など3,000項目以上の健康データを収集しています。今回の研究では、その中からAIを活用して、インフルエンザにかかりやすい要因165項目を抽出し、その要因の関係性を詳細に分析しました。
まず、健康データよりインフルエンザにかかった人とかからなかった人を比較し、発症に関係する因子を抽出。次に、要因同士の関係をより深く探るために、ベイジアンネットワーク解析を用いました。ベイジアンネットワーク解析とは、膨大なデータの中から「何が原因で、何が結果なのか」という因果関係を推定できる解析手法です。一般的な統計では「一緒に起きている関係(相関)」しかわかりませんが、この解析では「原因と結果のつながり」を矢印で示す“関係図”として表すことができます。本研究は、従来のように少数の要因と疾患との関係性を分析する研究とは異なり、100項目以上の健康データの関係性を同時に解析することで、インフルエンザ発症に関わる複雑な因果関係と個人差を初めて可視化しました。
この成果により、今後はワクチン接種や一般的な予防策に加えて、個人の体質や生活習慣に合わせた「オーダーメイド型の感染症対策」につながると考えられます。また、この解析手法はインフルエンザ以外の感染症対策・生活習慣病対策への応用も期待されます。
まず、健康データよりインフルエンザにかかった人とかからなかった人を比較し、発症に関係する因子を抽出。次に、要因同士の関係をより深く探るために、ベイジアンネットワーク解析を用いました。ベイジアンネットワーク解析とは、膨大なデータの中から「何が原因で、何が結果なのか」という因果関係を推定できる解析手法です。一般的な統計では「一緒に起きている関係(相関)」しかわかりませんが、この解析では「原因と結果のつながり」を矢印で示す“関係図”として表すことができます。本研究は、従来のように少数の要因と疾患との関係性を分析する研究とは異なり、100項目以上の健康データの関係性を同時に解析することで、インフルエンザ発症に関わる複雑な因果関係と個人差を初めて可視化しました。
この成果により、今後はワクチン接種や一般的な予防策に加えて、個人の体質や生活習慣に合わせた「オーダーメイド型の感染症対策」につながると考えられます。また、この解析手法はインフルエンザ以外の感染症対策・生活習慣病対策への応用も期待されます。
解析結果から、インフルエンザにかかりやすい人の傾向として、大きく次の5つのタイプを見いだしました。
解析結果から、インフルエンザにかかりやすい人の傾向として、大きく次の5つのタイプを見いだしました。
これまで「血糖が高いと感染症にかかりやすい」「睡眠不足は免疫に悪い」といった単独の要因は知られていましたが、本研究では、複数の要因がどのように影響し合って発症につながるのかを、ネットワーク構造として可視化できた点が本研究の大きな成果です。「インフルエンザにかかりやすい体質や生活習慣」は一様ではなく、血糖・呼吸器・睡眠・栄養・アレルギーといった多方面の要因が関わっていることを示しています。特に「肺炎の既往がある」「血糖が高め」「睡眠の質が良くない」といった複数の特徴を持つグループでは、それ以外のグループと比べてインフルエンザの発症リスクが約3.6倍でした。
これまで「血糖が高いと感染症にかかりやすい」「睡眠不足は免疫に悪い」といった単独の要因は知られていましたが、本研究では、複数の要因がどのように影響し合って発症につながるのかを、ネットワーク構造として可視化できた点が本研究の大きな成果です。「インフルエンザにかかりやすい体質や生活習慣」は一様ではなく、血糖・呼吸器・睡眠・栄養・アレルギーといった多方面の要因が関わっていることを示しています。特に「肺炎の既往がある」「血糖が高め」「睡眠の質が良くない」といった複数の特徴を持つグループでは、それ以外のグループと比べてインフルエンザの発症リスクが約3.6倍でした。
ここからは、上述の研究結果を踏まえ、感染症に詳しい内科医・久住英二先生に、今冬の感染拡大に備えるための具体的な予防対策についてお話を伺います。
ここからは、上述の研究結果を踏まえ、感染症に詳しい内科医・久住英二先生に、今冬の感染拡大に備えるための具体的な予防対策についてお話を伺います。
内科医・血液専門医 久住英二先生
立川パークスクリニック院長。1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。
内科医・血液専門医 久住英二先生
立川パークスクリニック院長。1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。
このまま感染が拡大すれば、例年と同じように抗ウイルス薬や医療機関で使用する検査キットの不足や、医療機関が混雑して発熱してもすぐに受診できない状況になる可能性も考えられます。そこで、症状が軽い場合は医療機関に頼りきらず自分で対応する「セルフメディケーション」も選択肢の一つです。
風邪をはじめとした感染症に対して家庭で備えておきたいのは、市販の解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)や総合感冒薬、インフルエンザや新型コロナの感染をセルフチェック可能な抗原検査キット。風邪のような症状が出たら、まず薬局等で購入できる抗原検査キットで検査を行い、インフルエンザや新型コロナでないと分かれば、自分の体調を確認しながら市販の風邪薬で様子を見ることも可能です。なお、性能等の確認がされていない「研究用」の検査キットも出回っているため、製品の選択には注意が必要です。検査は発症から10時間以上経ってから行うと精度が高まります。
インフルエンザ陽性の場合は、かかりつけ医での発熱外来受診やオンライン診療を活用し、抗ウイルス薬の処方を受けるのが理想的です。ただし、症状が軽い場合は、薬を使わず自然回復を待つ選択もあります。
インフルエンザは、喉の痛みや鼻水よりも関節痛、筋肉痛、強い悪寒といった全身症状が特徴的です。発症時は慌てず、水分をしっかり摂り、体を温め、十分な休養をとりましょう。高熱時は、水分とともに炭水化物でエネルギーを補給することが大切です。お粥やうどん、ゼリー、アイスなど、食べやすいもので構いません。
65歳以上の方でも、体力があり水分を摂れている、歩行や会話ができる、家族と連絡が取れる場合は、無理に病院へ行かず自宅療養のほうが望ましいケースもあります。一方で、自力でトイレに行けない、水分が摂れない、尿がほとんど出ていない、嘔吐や下痢がひどい場合は、すぐに医療機関を受診してください。
また、38度以上の発熱と悪寒があるからといって、必ずしもインフルエンザとは限りません。細菌性肺炎、溶連菌感染症、急性腎盂腎炎など、迅速な治療が必要な病気の可能性もあります。インフルエンザ検査が陰性でも症状が悪化する、または5日以上発熱が続く場合は、必ず医師の診察を受けてください。
一人ひとりがセルフケアと正しい判断力(セルフメディケーション・リテラシー)を高めることで、自分と家族を守るのはもちろん、必要な人に必要な医療を届けることにもつながります。
このまま感染が拡大すれば、例年と同じように抗ウイルス薬や医療機関で使用する検査キットの不足や、医療機関が混雑して発熱してもすぐに受診できない状況になる可能性も考えられます。そこで、症状が軽い場合は医療機関に頼りきらず自分で対応する「セルフメディケーション」も選択肢の一つです。
風邪をはじめとした感染症に対して家庭で備えておきたいのは、市販の解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)や総合感冒薬、インフルエンザや新型コロナの感染をセルフチェック可能な抗原検査キット。風邪のような症状が出たら、まず薬局等で購入できる抗原検査キットで検査を行い、インフルエンザや新型コロナでないと分かれば、自分の体調を確認しながら市販の風邪薬で様子を見ることも可能です。なお、性能等の確認がされていない「研究用」の検査キットも出回っているため、製品の選択には注意が必要です。検査は発症から10時間以上経ってから行うと精度が高まります。
インフルエンザ陽性の場合は、かかりつけ医での発熱外来受診やオンライン診療を活用し、抗ウイルス薬の処方を受けるのが理想的です。ただし、症状が軽い場合は、薬を使わず自然回復を待つ選択もあります。
インフルエンザは、喉の痛みや鼻水よりも関節痛、筋肉痛、強い悪寒といった全身症状が特徴的です。発症時は慌てず、水分をしっかり摂り、体を温め、十分な休養をとりましょう。高熱時は、水分とともに炭水化物でエネルギーを補給することが大切です。お粥やうどん、ゼリー、アイスなど、食べやすいもので構いません。
65歳以上の方でも、体力があり水分を摂れている、歩行や会話ができる、家族と連絡が取れる場合は、無理に病院へ行かず自宅療養のほうが望ましいケースもあります。一方で、自力でトイレに行けない、水分が摂れない、尿がほとんど出ていない、嘔吐や下痢がひどい場合は、すぐに医療機関を受診してください。
また、38度以上の発熱と悪寒があるからといって、必ずしもインフルエンザとは限りません。細菌性肺炎、溶連菌感染症、急性腎盂腎炎など、迅速な治療が必要な病気の可能性もあります。インフルエンザ検査が陰性でも症状が悪化する、または5日以上発熱が続く場合は、必ず医師の診察を受けてください。
一人ひとりがセルフケアと正しい判断力(セルフメディケーション・リテラシー)を高めることで、自分と家族を守るのはもちろん、必要な人に必要な医療を届けることにもつながります。